左の図のように、気管内チューブの先端にある青い部分は、人工呼吸により肺に送り込んだ空気が隙間から漏れないように蓋をするバルーンのようなもので、カフと言います。
このカフの中の圧力が強すぎたり、長期間カフを膨らませたままにしていたりすると、気管壁の血流が阻害され軟骨壊死などを起こし、気管狭窄が起こります。
これに対し、声門下腔、声門後部はやや違った機序で異なる狭窄の仕方を起こします。
左の図は、喉頭(声門や声門下など)と気管を横から見た模式図です。
気管は背中側膜様部という筋肉になっており伸縮するため比較的圧力には強いので、カフに直接圧迫されない部分が狭窄することは稀です。
これに対し輪状軟骨は下端の部分が軟骨が一周しているため伸縮できません。したがって内部からの圧迫に弱く、比較的サイズの大きいチューブが通過しているとこれだけで圧迫壊死を起こし狭窄の好発部位と成っています。この部位の狭窄を声門下狭窄といい、成人の気道狭窄には比較的多く見かけます。
この声門下狭窄は、喉頭狭窄の一種であり気管狭窄のように単純に切って縫い合わせることはできません。
喉頭は呼吸だけでなく、声帯の開閉による発声、ものを飲み込む時に閉鎖することによってむせを防ぐ嚥下という三つの働きを同時に行っています。したがって、喉頭狭窄の治療は、呼吸を改善し、かつ発声と嚥下の機能を障害しないことが同時に要求されます。また縫い合わせたところがもう一度狭くなって来ないようにするという気管狭窄の際の原則も同時に要求されるため、難易度の高い治療となります。
この手術は1980年代にカナダのトロント大学で胸部外科医と耳鼻咽喉科医により共同で行われるようになり、その後主に欧米において普及してきています。
この術式における喉頭の扱いは比較的特殊で、私がスペインのバレンシア大学に留学して初めてこの手術を見た時は本格的に喉頭の知識がないと見よう見まねでできるものではないなと痛感しました。
この術式は手術が終わればその場で麻酔から覚醒させて気管内チューブを抜くことが多く、手術直後から呼吸が普通の状態に戻るという意味で、喉頭狭窄の手術としては最も基本かつシンプルなものでありますが、経験の少ない施設での報告などを見るとかなり吻合不全が多い印象を受けます。
この術式はヨーロッパでは開発者の名前をとってPearson’s operationなどといわれることが多く、私自身も気道狭窄の中では最も経験数の多い術式です。
次回は少しPearson’s operationについて詳しく説明します。
続く