前回、未熟児などの長期経口挿管後に発生する後天性気道狭窄の機序について説明いたしました。
基本的には長期経口挿管後の気道狭窄の発生機序は成人と同じで、このブログでも以前取り上げております。
しかし、小児と成人では幾つか異なる面もあります。
私は元々スペインにいた時に成人の気道狭窄の手術から学び始めたため成人の手術も多く経験していますが、成人の長期挿管例は多くの場合、心筋梗塞などの基礎疾患に対して行われており糖尿病の合併なども多く、喉頭の破壊が小児よりも激しい印象があります。また、喉頭の軟骨が骨化していることも関係しているのか軟骨が溶けて消失しているなど喉頭の再建に難渋することもあり、小児例では一例も必要となったことのない輪状軟骨全摘術なども何例か経験があります。
これに対し、小児の場合は軟骨が非常に柔らかいことや糖尿病や加齢の影響などがなく、組織の状態が成人とは異なると考えています。
小児の気道狭窄の治療に関してはこれが比較的大きな違いをもたらしています。成人の場合は、喉頭の軟骨に限らず全身の軟骨が加齢により徐々に骨化していくため、小児でしばしば行われる肋軟骨移植という選択肢が成人、特に高齢の患者にはあまり行われない、ということがあります。
これに対して、成人の治療は多くの場合は、狭窄部の切除・吻合を行う輪状軟骨気管切除(Primary cricotracheal resection: PCTR)という方法を行います。これは以前のブログで解説していますので下記を参考にしてください。
海外の気道疾患治療(4)成人の声門下狭窄の手術:Pearsonの喉頭気管切除
海外の気道疾患治療(7)成人の声門部・声門下狭窄の手術:Couraudの手術
切除吻合はもちろん小児にも適応になりますが、この術式に加え、小児に対しては、肋軟骨を用いて開大を行う喉頭気管再建(Laryngotracheal reconstruction: LTR)という別の術式が存在します。理論的には成人でも可能ですが経験上は50歳を過ぎると軟骨の質が特に悪くなるため、主に小児のための手術と考えています。
ただし、これはどちらの術式でも良いというわけではなく、狭窄の部位・機序・狭窄の程度で細かく術式が変わるため、術前の評価は特に注意が必要です。この手術を受けたものの術後気管切開の閉鎖ができないという場合、最初の手術で適切な術式が選択されていない場合が見受けられ、特に初回手術は二回目以降に比べ手術の難易度も下がるため慎重な術式選択が必要とされます。