海外の気道疾患治療(6)成人の声門部・声門下狭窄の手術

成人の声門部・声門下狭窄の典型的な発症の仕方は、肺炎や心筋梗塞などで長期に挿管されていたようなケースです。

元々の病気が改善し人工呼吸器が外れたのち抜管したところ、すぐにあるいは徐々に呼吸がしにくくなり、検査してみると気道の閉塞が見つかり気管切開になるというパターンです。

小児においても理屈的には同じことが起こるのですが、経験上、成人の場合は狭窄のみならず輪状軟骨の壊死が起こっていたり局所の反応が激しいことが時々あります。

これは、糖尿病などの原病がベースにあるために圧迫壊死が起こりやすかったり、軟骨自体が加齢変化で骨化していたりということが原因になっていると考えられ、状態によってケースバイケースで術式を変更する必要があります。

声門下狭窄単独の場合は、Pearsonの手術が用いられることは以前述べましたが、声門部・声門下狭窄の場合は、いわば二つの病気が並列に存在している状態であり、Pearsonの手術だけでは、治療はできません。この状態が難しいところは、この並列の病態を同時に治療する術式が要求されることです。

また、声門部の病態が靭帯の壊死からくる瘢痕によるものだけなのか、披裂輪状関節の固着があるか、輪状軟骨への炎症の波及による壊死があるのかによって術式が変わっていくため、最終的には手術中に術式を決定する必要が出てきます。

このようなケースは、Pearsonの手術以降の課題となり、同じくPearsonとフランス・ボルドーのLouis Couraudという胸部外科医によっていくつかの手術が開発されていきます。

海外の気道疾患治療(5)成人の声門部・声門下狭窄について

前回は狭窄が声門下に限局して起こっている場合について説明いたしました。このような状態は色々な原因で起こりますが、最近救急の場などを中心に普及しているセルジンガー法による気管切開(針を刺したところからガイドワイヤーを通してだんだん広げていく方法)の不適切な処置によっても時にみられます(下図)。

これは外科的に行う場合は直視で正確に気管切開の高さを確認できるのに対して、セルジンガー法ではブラインドで行うことにより、高すぎる位置にて気管切開が行われることによって輪状軟骨弓が損傷されることが原因です。

私はスペインで働いていた時にかなりの数のセルジンガー法を行いましたが、常に集中治療医の立会いのもと、一人が気管支鏡で内部を確認しながら、術者が他の医師とともにモニターで位置確認をしながら行う方法を用いていたので、幸い一例も抜去後の狭窄を見ることはなかったですが、そうでなければ一定の割合で狭窄を起こしてしまうようです。日本国内だけでも複数例このようなケースの手術を行ったことがあります。特に一分一秒を争わないケースで集中治療室でこれを行い狭窄を起こしているケースは時々見かけますが、これは改善すべき点だと考えています。

これに対して、長期の経口経鼻挿管に引き起こされる場合は、単純な声門下狭窄に止まらない場合があります。

これは左図のように挿管チューブがその屈曲の形から声門部の背側部にある披裂軟骨間靭帯を直接圧迫することになり、この部分が壊死を起こすために瘢痕拘縮を起こし声帯が閉まったままの状態・声門後部狭窄を起こすことによります。

下の図は声帯を見たものです。最初の図は正常な声帯で、呼吸をする時は開き、声を出したりする時は閉鎖します。

真ん中の図は挿管チューブが入っています。背中の部分が接していますが、直接の圧迫が披裂軟骨間靭帯を圧迫しており、長期間の留置でこの部分が壊死を起こします。

その後、最後の図のように背中側が瘢痕にて完全にくっついてしまい開かなくなります。これはいわば”開きたくても開けない”という状態で、いわゆる”両側声帯麻痺”とは全く異なる病態です。

今まで関わった国内の患者さんを見ていると、このような状態に両側声帯麻痺と診断をつけられている方が非常に多いですが、これは明らかな診断の間違いです。この二つは全く異なる原因、異なる状態であるために治療も全く違います。そういう意味でも正確な診断は正しい治療のためにも不可欠です。

海外の気道疾患治療(4)成人の声門下狭窄の手術:Pearsonの喉頭気管切除

気道の狭窄が気管に限局せず、輪状軟骨の高さまで及んでいる場合、これを声門下狭窄といい、手術としては単純な気管の切除・端々吻合を行うだけでは対処できません。

左図にあるように、輪状軟骨は声帯と気管の間に存在します。声帯は輪状軟骨の上に乗っかる形で存在する披裂軟骨から出ており、輪状軟骨はこの披裂軟骨を支持する働きがあります。

また、声帯の動きを司る反回神経は気管の背中側を通って輪状軟骨の裏側から入ってくる走行を取るため、仮にこれを損傷すると反回神経麻痺といって声帯が動かなくなります。

このため、声門下狭窄の際の狭窄部の切除は気管切除と同じようにはできません。

1975年にカナダのトロント大学のPearsonという胸部外科医が声門下狭窄に対する切除・吻合の方法を初めて報告し、以降1980年代になって世界的に徐々に広がっていくことになります。

左の図はPearsonの手術を横から見た模式図です。

詳細を述べても想像がつき難いと思うのでイメージのみを説明しますが、披裂軟骨の支持を維持するために、輪状軟骨の後面はそのまま残し、異常な粘膜のみを切除します。また前面の軟骨及び粘膜は取り除かれてしまいます。

気管にかかっている部分はもちろん全て切除することなります。吻合は気管を持ち上げてきて縫い合わせることになるのですが、吻合の上下で形が違うためやや工夫が必要となります。

この術式には幾つかのポイントがあります。

まず、基本的には吻合に関しては気管吻合と同じ原則が適応されます。何度か日本の学会でこれに関して致命的な誤解をしている発表を見たことがあり、そのような症例ではやはり術後に吻合不全を起こしていました。

また、喉頭と気管は基本的には別の器官であり、例えば血流支配やリンパの流れが輪状軟骨下端の上下で異なることなど、双方の性質をよく理解している必要があります。術後に喉頭が腫れてきて窒息死などを起こしたりしたケースを聞くことがありますが、基本的には術後は長期に経口挿管をする必要はなく、術後管理にも経験が必要となります。

さらにこのような注意が必要と成る最も大きな理由は、声帯の動きを司る反回神経を注意深く傷つけないようにしないといけないことです。

一般的にはこのような点に気をつければ、手術直後から正常な気道の広さとなるため非常に効果の高い手術となります。この手術は喉頭狭窄のものの中で最もシンプルかつ基本となるものであり、さらに複雑な狭窄を持つ治療のための基礎となる手術です。

海外の気道疾患治療(3)成人の気道狭窄についてーその2

左の図のように、気管内チューブの先端にある青い部分は、人工呼吸により肺に送り込んだ空気が隙間から漏れないように蓋をするバルーンのようなもので、カフと言います。

このカフの中の圧力が強すぎたり、長期間カフを膨らませたままにしていたりすると、気管壁の血流が阻害され軟骨壊死などを起こし、気管狭窄が起こります。

 

これに対し、声門下腔、声門後部はやや違った機序で異なる狭窄の仕方を起こします。

左の図は、喉頭(声門や声門下など)と気管を横から見た模式図です。

気管は背中側膜様部という筋肉になっており伸縮するため比較的圧力には強いので、カフに直接圧迫されない部分が狭窄することは稀です。

これに対し輪状軟骨は下端の部分が軟骨が一周しているため伸縮できません。したがって内部からの圧迫に弱く、比較的サイズの大きいチューブが通過しているとこれだけで圧迫壊死を起こし狭窄の好発部位と成っています。この部位の狭窄を声門下狭窄といい、成人の気道狭窄には比較的多く見かけます。

この声門下狭窄は、喉頭狭窄の一種であり気管狭窄のように単純に切って縫い合わせることはできません。

喉頭は呼吸だけでなく、声帯の開閉による発声、ものを飲み込む時に閉鎖することによってむせを防ぐ嚥下という三つの働きを同時に行っています。したがって、喉頭狭窄の治療は、呼吸を改善し、かつ発声と嚥下の機能を障害しないことが同時に要求されます。また縫い合わせたところがもう一度狭くなって来ないようにするという気管狭窄の際の原則も同時に要求されるため、難易度の高い治療となります。

この手術は1980年代にカナダのトロント大学で胸部外科医と耳鼻咽喉科医により共同で行われるようになり、その後主に欧米において普及してきています。

この術式における喉頭の扱いは比較的特殊で、私がスペインのバレンシア大学に留学して初めてこの手術を見た時は本格的に喉頭の知識がないと見よう見まねでできるものではないなと痛感しました。

この術式は手術が終わればその場で麻酔から覚醒させて気管内チューブを抜くことが多く、手術直後から呼吸が普通の状態に戻るという意味で、喉頭狭窄の手術としては最も基本かつシンプルなものでありますが、経験の少ない施設での報告などを見るとかなり吻合不全が多い印象を受けます。

この術式はヨーロッパでは開発者の名前をとってPearson’s operationなどといわれることが多く、私自身も気道狭窄の中では最も経験数の多い術式です。

次回は少しPearson’s operationについて詳しく説明します。

続く

海外の気道疾患治療(2)成人の気道狭窄について

気管切開(2)成人についてにて説明しました通り、成人の気道狭窄でよく遭遇するのは、なんらかの疾患に対する長期経口挿管や、不適切な位置で行われた気管切開による声門部、声門下、気管の狭窄です。これに加えて、30歳代から50歳代までの女性に起こる特発性声門下狭窄という原因不明の病態も時に認めます。

左図のように、経口挿管チューブが長時間喉頭や気管壁を圧迫することによってその部分が壊死を起こし、その部分が閉鎖しようとするため徐々に喘鳴を伴う呼吸困難を認めるようになります。

呼吸をするために気管切開が置かれますが、これを根本的に治療して気管切開を閉鎖するためにはほとんどの場合が手術が必要となります。

 

狭窄部が気管のみに限局されている場合は比較的シンプルな術式となり、気管切除および端端吻合となります。これは同じ形のものを縫い合わせるために技術的には最も基本的なものです。

左の図のように、狭くなった部分(狭窄部の上下で気管を一旦切り離し、異常な部分を完全に切除します。上下に残った正常な部分を縫い合わせることによって正常と同じ気管の内腔の太さを得ることができます。

私が初めてヨーロッパに渡った2001年当時、日本国内では合併症の多い難解な術式とされており、実際学会などの発表などを見てもこの術式でも一筋縄ではいっていなかった印象があります。

気管手術の最大の難点は縫い合わせた部分にかかる張力であり、長く切除すればするほどそれは大きくなります。張力が大きいままに縫い合わせるといわゆる吻合不全が起こり、その部分が再度狭窄してきます。手術後にまた狭くなってきたという場合は例外なく吻合不全であり、吻合部の張力をうまく減らせなかったことを意味します。国内の発表を見ているとこのようなケースが非常に多い印象を受けます。

この術式自体はすでに1960年代にアメリカで開発され、1980年代には主にアメリカ、カナダ、フランスなどで多数の手術をこなしている施設がありました。私が2001年から2005年までお世話になったバレンシア大学胸部外科の当時の部長Vicente Tarrazona教授は、当時この分野の三巨人として扱われていたフランス・ボルドーのLouis Couraud教授の一番弟子であり、バレンシア大学で、スペイン全土から送られてくる成人の気道狭窄の手術を行っていました。私がいた頃は年間20−30例の手術を行っており、その多くが長期挿管や気管切開による声門下狭窄に対する手術でした。

次回につづく