気管切開について(1):気管切開とは

気道疾患を扱う中で、日常生活に大きな支障をきたす状態として気管切開があります。患者さんやその御家族とお話をしていると、気管切開の管理が大変だという話をよく聞きますが、ではなんのために気管切開が必要か、なぜ気管切開でないといけないのかというところまではよくご理解できていないケースを見かけます。ここでは気管切開について解説をいたします。

気管切開とはなんらかの理由で鼻あるいは口からの呼吸では通常の呼吸に支障が出る場合に、頸部に直接穴を開けて気管切開チューブを挿入しこれを通じて呼吸に必要な空気が直接気管に入るようにできる状態のことを言います。

一般的に気管切開が必要となるのは以下のようなケースです。

例えば70歳代の患者さんが発熱とともに息が徐々に苦しくなってきたとして来院されたところ、重症の肺炎が見つかったとします。酸素を投与しても酸素化が十分でなく、また呼吸もかなりしんどくなってきた場合、これ以上ご自分の呼吸だけで肺炎の回復まで待つのは難しいと判断すれば、鎮静剤で眠らせて人工呼吸器につなぐために気管内挿管を行います。これは、人工呼吸器という機械に呼吸をさせるために空気を肺に送り込むチューブを口あるいは鼻から咽頭喉頭を通過して気管の中に直接留置する状態を言います。

この経口あるいは経鼻挿管は大体一週間程度、長くても2週間程度が限度とされています。

これは、チューブにより左図のような声門後部、声門下腔、気管などにダメージを与える可能性(後述)があるためです。また、チューブが口や鼻を占拠していると口腔ケアなども難しくなるため不衛生になりがちな面もあります。

 

このようなケースでは、肺炎の治療を行いながら回復に合わせて徐々に人工呼吸器による補助を減らしていき、あるところで人工呼吸器を外します。しばらくは気管切開を維持したまま経過を観察しますが、もう大丈夫という段階になれば気管切開は必要なくなるため、チューブを抜去しこれを閉鎖します。

通常は、上記のように原因となる病態の治療の間は気管切開を維持し、病態が治癒すれば気管切開孔を閉鎖します。しかし

ー 原疾患が治癒しない場合

ー 原因疾患が治癒したものの、気管切開チューブを抜去すると直ちに呼吸困難が出現する

ー 原疾患が治癒し、気管切開孔を閉鎖しても直ちに問題は起こらないが、完全に閉鎖してしまうと問題を起こすと予想される

というケースには気管切開孔を閉鎖することができなくなります。これらの疾患は成人と小児において原因となる疾患が少し異なり、それぞれに対して対処の仕方が異なることとなります。

気道とは

 

気道疾患を説明するためにまず”気道”について解説します。上記の図を参照ください。

(1)呼吸に必要な酸素を含む空気は鼻腔あるいは口腔から体内に入ります。通常は呼吸に際しては鼻腔から空気が入るのが正常とされています。鼻腔から入ることによって空気が加湿されるためです。

生まれつき鼻腔と咽頭の境界が閉じている状態(先天性後鼻孔閉鎖症)やアデノイド増殖症などで鼻呼吸が難しい場合、口呼吸になることがあります。

(2)鼻腔あるいは口腔に入った空気は次に咽頭を通過します。

この部分の狭窄は扁桃腺肥大やアデノイド増殖症など器質的な原因による狭窄もありますが、機能的な狭窄も多く、舌が落ち込んで無呼吸の原因となったり、先天性の神経疾患などで咽頭の筋緊張の低下による閉鎖などがあります。

(3)咽頭を通過した空気は喉頭に到達します。喉頭を拡大したのが下図です。

喉頭は主に甲状軟骨と輪状軟骨によって形成される空間を言います。

甲状軟骨に隠れるように声帯があり、その上下で便宜的に声門上、声門下と分かれます。

この声門上、声帯、声門下それぞれ特有の狭窄が起こり得ますが、病態はほぼ全く異なるものであり、診断および治療も経験を積んだ専門家でないと正確にはできていないのが現状です。

輪状軟骨下端から尾側に気管が連続しています。これが気管分岐部という左右の分岐に到達したのち左右気管支とつながり、分岐を繰り返し肺に到達します。

この鼻腔・口腔から肺に至るまでの一本の通り道に原因や病態の異なる数々の狭窄が起こり得ます。これらを全てのレベルで正確に診断し、それぞれに対して適切な治療が必要を行うことが必要となります。

以上の全てのレベルに問題がないかを評価するところから気道疾患の治療は始まります。

気道疾患とは

当サイトでは気道疾患という言葉を主に肺疾患と分けて使います。

肺疾患とは例えば肺炎などの肺そのものがやられているためいくら呼吸をしてもうまく酸素が体内に取り入れられずに呼吸困難に至る疾患を指します。

これに対して当サイトでの気道疾患とは肺そのものは正常あるいはほぼ正常に機能していても、空気の通り道である気道がなんらかの形で狭くなっているために、”呼吸という運動がうまくいかない”、いわゆる換気障害を起こしている状態を指します。

実際に専門的な病名を説明することも重要ですが、患者さんからみた症状からどのような病態が考えられるかを中心にこのブログでも解説を行っていく予定です。

もし自分の症状が気道の狭窄などによっておこっているのではないかと考えられる場合には、ご参照いただければ幸いです。

当研究会の目的について

当研究会では、気道疾患、特に気道狭窄の病態についてわかりやすく解説していく予定です。

気道と一言で言っても

ー 鼻腔、口腔 (鼻や口)
ー 咽頭、喉頭 (のど)
ー 気管、気管支 (肺に至る空気の通り道)
ー 肺

など、さまざまな部位を通過した空気中の酸素が肺に到達して初めて呼吸が可能となります。

この中には、空気の通り道が物理的に狭くなることによって起こるものや、機能的に狭くなったりまた戻ったりすることによって呼吸の障害が起こるものなどさまざまな病態が存在します。

また、口腔鼻腔といった空気の入り口、咽頭などの入り口のすぐ奥、喉頭気管気管支といった筒状の通り道、そして肺という場所によって問題となる病気の原因、病態、症状も全く異なります。

それぞれの部位のよるさまざまな疾患に関して説明をしていく予定でありますので、疑問やご相談があれば当研究会の連絡先:info@airwaystenosis.org
にご連絡いただければ可能な限りでご質問にはお答えする予定です。