海外の気道疾患治療(5)成人の声門部・声門下狭窄について

前回は狭窄が声門下に限局して起こっている場合について説明いたしました。このような状態は色々な原因で起こりますが、最近救急の場などを中心に普及しているセルジンガー法による気管切開(針を刺したところからガイドワイヤーを通してだんだん広げていく方法)の不適切な処置によっても時にみられます(下図)。

これは外科的に行う場合は直視で正確に気管切開の高さを確認できるのに対して、セルジンガー法ではブラインドで行うことにより、高すぎる位置にて気管切開が行われることによって輪状軟骨弓が損傷されることが原因です。

私はスペインで働いていた時にかなりの数のセルジンガー法を行いましたが、常に集中治療医の立会いのもと、一人が気管支鏡で内部を確認しながら、術者が他の医師とともにモニターで位置確認をしながら行う方法を用いていたので、幸い一例も抜去後の狭窄を見ることはなかったですが、そうでなければ一定の割合で狭窄を起こしてしまうようです。日本国内だけでも複数例このようなケースの手術を行ったことがあります。特に一分一秒を争わないケースで集中治療室でこれを行い狭窄を起こしているケースは時々見かけますが、これは改善すべき点だと考えています。

これに対して、長期の経口経鼻挿管に引き起こされる場合は、単純な声門下狭窄に止まらない場合があります。

これは左図のように挿管チューブがその屈曲の形から声門部の背側部にある披裂軟骨間靭帯を直接圧迫することになり、この部分が壊死を起こすために瘢痕拘縮を起こし声帯が閉まったままの状態・声門後部狭窄を起こすことによります。

下の図は声帯を見たものです。最初の図は正常な声帯で、呼吸をする時は開き、声を出したりする時は閉鎖します。

真ん中の図は挿管チューブが入っています。背中の部分が接していますが、直接の圧迫が披裂軟骨間靭帯を圧迫しており、長期間の留置でこの部分が壊死を起こします。

その後、最後の図のように背中側が瘢痕にて完全にくっついてしまい開かなくなります。これはいわば”開きたくても開けない”という状態で、いわゆる”両側声帯麻痺”とは全く異なる病態です。

今まで関わった国内の患者さんを見ていると、このような状態に両側声帯麻痺と診断をつけられている方が非常に多いですが、これは明らかな診断の間違いです。この二つは全く異なる原因、異なる状態であるために治療も全く違います。そういう意味でも正確な診断は正しい治療のためにも不可欠です。

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