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海外の気道疾患治療(15)小児の気道狭窄の治療:後天性気道狭窄(2)
前回、未熟児などの長期経口挿管後に発生する後天性気道狭窄の機序について説明いたしました。
基本的には長期経口挿管後の気道狭窄の発生機序は成人と同じで、このブログでも以前取り上げております。
しかし、小児と成人では幾つか異なる面もあります。
私は元々スペインにいた時に成人の気道狭窄の手術から学び始めたため成人の手術も多く経験していますが、成人の長期挿管例は多くの場合、心筋梗塞などの基礎疾患に対して行われており糖尿病の合併なども多く、喉頭の破壊が小児よりも激しい印象があります。また、喉頭の軟骨が骨化していることも関係しているのか軟骨が溶けて消失しているなど喉頭の再建に難渋することもあり、小児例では一例も必要となったことのない輪状軟骨全摘術なども何例か経験があります。
これに対し、小児の場合は軟骨が非常に柔らかいことや糖尿病や加齢の影響などがなく、組織の状態が成人とは異なると考えています。
小児の気道狭窄の治療に関してはこれが比較的大きな違いをもたらしています。成人の場合は、喉頭の軟骨に限らず全身の軟骨が加齢により徐々に骨化していくため、小児でしばしば行われる肋軟骨移植という選択肢が成人、特に高齢の患者にはあまり行われない、ということがあります。
これに対して、成人の治療は多くの場合は、狭窄部の切除・吻合を行う輪状軟骨気管切除(Primary cricotracheal resection: PCTR)という方法を行います。これは以前のブログで解説していますので下記を参考にしてください。
海外の気道疾患治療(4)成人の声門下狭窄の手術:Pearsonの喉頭気管切除
海外の気道疾患治療(7)成人の声門部・声門下狭窄の手術:Couraudの手術
切除吻合はもちろん小児にも適応になりますが、この術式に加え、小児に対しては、肋軟骨を用いて開大を行う喉頭気管再建(Laryngotracheal reconstruction: LTR)という別の術式が存在します。理論的には成人でも可能ですが経験上は50歳を過ぎると軟骨の質が特に悪くなるため、主に小児のための手術と考えています。
ただし、これはどちらの術式でも良いというわけではなく、狭窄の部位・機序・狭窄の程度で細かく術式が変わるため、術前の評価は特に注意が必要です。この手術を受けたものの術後気管切開の閉鎖ができないという場合、最初の手術で適切な術式が選択されていない場合が見受けられ、特に初回手術は二回目以降に比べ手術の難易度も下がるため慎重な術式選択が必要とされます。
海外の気道疾患治療(14)小児の気道狭窄の治療:後天的気道狭窄(1)
前回まで小児の気道狭窄の中で先天性疾患を説明してきましたが、今回は後天性な気道狭窄についてお話しします。
後天的なものの中で気管切開を要する重篤な状態を引き起こす代表的なものは長期経口挿管によるものです。
その中でも数が多いのが未熟児の長期挿管後の喉頭気管狭窄です。
未熟児の場合、超早期産などの場合、気管切開されるまで数週間、数ヶ月経口挿管されていた、という患児に度々出会います。
以前、成人の場合で説明しましたように(http://airwaystenosis.org/2017/09/07/海外の気道疾患治療(6)成人の声門部・声門下/)長期経口挿管の場合は、しばしば複数の箇所に狭窄が来ることがあります。
上記の図は成人用のもののため、チューブの先端にカフという風船が描かれていますが、未熟児や新生児ではこのカフがありませんので、特に狭窄を来たしやすい場所としては声門後部・声門下ということになります。
このような場合、声門後部のみに病変があるのか、声門下のみに狭窄があるのか、その双方に狭窄ができたのか、によって手術術式が異なってくるのに加え、その狭窄の度合いによっても細かく術式を変更する必要が出てきます。そのため、治療に関してはまず診断を正確につけるために術前の全身麻酔下にてすべてのレベルの狭窄の有無および性質をきちんと評価しておかないと術式を決定するのは難しいと考えます。
次回は病変の位置と治療法について説明いたします。
海外の気道疾患治療(13)小児の気道狭窄の治療:先天性疾患その5
前回は声門下の疾患を見ましたが、今回は気管の先天性疾患について説明いたします。
輪状軟骨の下端に続いて気管が始まります。
気管の先天異常には幾つかの種類があり、時々目にするものに気管食道瘻があります。これは食道と気管が本来は別の器官として存在するはずが、一部繋がっていることによって食道内のものが気管に流れ込んだりすることによって呼吸症状を起こしたりします。この治療に関してはある程度確立されておりここでは詳述いたしません。
これ以外に先天性の気道疾患として気管に起こるものに先天性気管狭窄があります。
正常な気管は左図のように馬蹄形をした軟骨部と筋肉で出来た気管膜様部からなります。
膜様部は筋肉で出来ているため伸縮可能であり、咳嗽の時に気管内腔を狭くすることによって内圧を上昇されたり、気管内挿管などの時には内腔を広くして圧迫壊死などを防ぐなど非常に重要な役割を果たします。
先天性気管狭窄では左図のように正常な気管に存在する気管膜様部が欠損し、全周が気管軟骨で囲まれているため、内腔が正常よりも狭くなっておりまたまた気管の伸縮も起こらないため、無理に気管チューブなどを挿入しようとすると気管にダメージを与える可能性があります。
先天性気管狭窄においては多くの場合、心臓奇形や大血管の走行異常を認めるため、診断のためには内視鏡による気管内腔の観察に加え、造影CT検査など心血管異常の検索も不可欠となります。
治療に関しては、slide tracheoplastyという比較的特殊な手技を用いて行われ、多くの場合は心血管奇形と同時手術となり、人工心肺を用いる大きな手術となります。
海外の気道疾患治療(12)小児の気道狭窄の治療:先天性疾患その4
前回は声門部に起こり得る先天性疾患の説明をいたしましたが、今回はその下の声門下に起こる中で代表的な疾患である先天性声門下狭窄について説明いたします。
声門下、という言葉はその名の通り、声門(声帯)の下という意味であって、声を出すために必要な声帯を超えてすぐの部分を指します。これは位置の名前であるため正確にはどこまでを指すのか漠然としていますが、声門下というのは、左図でいう輪状軟骨に囲まれた部分と考えて差し支えありません。
気道というのは空気の通り道であり連続しているものですが、声帯、声門下、気管という三つの隣り合う器官は全く異なる構造を持ち、これが狭窄の治療を複雑なものにしています。
気管は、図に示すように断面を見ると気管軟骨輪と膜様部から成り立っています。この膜様部は筋肉で出来ており伸縮性があるため咳などをするときはこれが内腔を塞ぐような形で気道を狭くする一方、気管内挿管などにおいてはこの部分がある程度伸びるためにチューブのカフなどの圧力をやる過ごす働きを持っています。
これに対し声門下腔を形成する輪状軟骨は気道を包む形で全周が軟骨になっているため伸縮することによって圧力を軽減することが出来ません。このため太すぎるチューブや長期の経口挿管ののちに狭窄を起こす原因ともなります。このように声門下腔においては輪状軟骨が形作る内腔が不変であることが様々な問題を起こす原因となっています。
ちなみにいずれ後天的疾患の際に説明いたしますが、大体元気なんだけれども風邪をひくと喘鳴が出やすいとか、普段は元気だけど肺炎を起こしやすいという主訴で来院される小児をローザンヌ時代にはしばしば検査をする機会がありましたが、このような症状の患児に結構な割合で声門下嚢胞や声門下血管腫を診断したことがあり、やはりなんとなくスッキリしない臨床症状には理由があるものだと痛感したことがあります。
上記から予想がつくように、先天性声門下狭窄とはこの声門下腔を形成する輪状軟骨の先天的形状異常ということが出来ます。これは幾つかのパターンがありますが、必ずしも輪状軟骨が小さいとは限らず、むしろ多くはその形状の異常が問題となっています。これを理解できないと誤った術式を選択することとなり、治療が奏功しないだけでなくむしろ状況を悪化させることになります。
続く