一旦気管切開を行ったのちに、それが閉鎖できなくなる状態というのは以下のような状況が考えられます
(1) 元々の病気が治療できていない、あるいは治癒していない
(2) 元々の病気が治癒し、気管切開を閉鎖しても直ちに呼吸困難は起こらないが同じ病気を繰り返す可能性がある
(3) 元々の病気が治癒し、気管切開では呼吸に問題はないが、気管切開を閉鎖すると呼吸困難に陥る
これらの疾患は、成人と小児でやや原因となる状態が異なります。今回は成人の疾患に関して解説を行います。
成人で気管切開が閉じれなくなる状態は上記のいずれにも認めます。
(1)のような場合とは例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)など進行性の疾患などにより気管切開を介した人工呼吸管理がなければご自身で呼吸ができないような場合で、この場合は選択の余地はありません。
(2)のような場合とは、例えば加齢変化で徐々に飲み込みの機能が悪くなり、繰り返し肺炎などを引き起こすようになったりする場合です。治療直後は良くなりますが、すぐに肺炎を繰り返すため、誤ってむせたりした場合などすぐに気管の吸引ができるようにあえて気管切開を閉鎖しないで維持するような場合です。
(3)のようなケースとは、気管切開を必要とする元々の病気の治療中に治療に関連して新たな気道の問題が生じた場合をさします。経験上、以下のようなケースが多いようです。
ケース1:心筋梗塞で緊急入院し、治療を受けた。治療後も集中治療室でしばらく経口挿管され人工呼吸管理をされていたが、回復してきたので抜管(口からの管を抜く)したところ、呼吸困難を起こしすぐに再度経口挿管を必要とした。これを繰り返すため気管切開が必要となった。
気管内挿管は左図のようなチューブが長期にわたり気道に留置されるため、チューブの圧迫によって組織の壊死から狭窄が発生する可能性があります。
特に影響を受けやすいのは図のように声帯の背中側(声門後部)、声門下腔、気管壁で、壊死を起こした組織が治癒する際に瘢痕萎縮を起こしその部分が閉鎖しようとします。これにより鼻や口からの呼吸が難しくなることにより呼吸困難が起こります。
ケース2:交通事故で救急センターに運び込まれた。脳出血など危険な状態であったためしばらく人工呼吸管理が必要と説明を受けた。経口挿管が長期となったため、集中治療室で経皮的気管切開を受けた。回復したため気管切開を閉じようとしたがチューブを抜くとすぐに呼吸困難が起こるため気管切開が閉鎖できない。
最近、このようなケースをしばしば見かけるようになりました。いわゆる高位気管切開という状態です。これは以前は耳鼻科医などの専門医が外科的に行っていた気管切開ですが、カテーテルなどで非外科的に気管切開を行うようになり、救急の場などで使われるようになったセルジンガー法という方法で行われることが増えてきたに連れて、増えているようです。
本来、気管切開は第二気管輪以下の高さで行うのが原則とされています。それよりも高い位置で気管切開を行うと輪状軟骨弓を損傷してしまい、声門下狭窄を起こしてしまうからです。
セルジンガー法は手軽な反面、気管壁を目で見ながら処置ができないため不適切な位置に気管切開を行ってしまう可能性があります。
上記のように、声帯、声門下、気管の狭窄は病態が少しずつ違うため治療にも専門的な知識と技術が必要となってきます。