気管切開(2)成人についてにて説明しました通り、成人の気道狭窄でよく遭遇するのは、なんらかの疾患に対する長期経口挿管や、不適切な位置で行われた気管切開による声門部、声門下、気管の狭窄です。これに加えて、30歳代から50歳代までの女性に起こる特発性声門下狭窄という原因不明の病態も時に認めます。
左図のように、経口挿管チューブが長時間喉頭や気管壁を圧迫することによってその部分が壊死を起こし、その部分が閉鎖しようとするため徐々に喘鳴を伴う呼吸困難を認めるようになります。
呼吸をするために気管切開が置かれますが、これを根本的に治療して気管切開を閉鎖するためにはほとんどの場合が手術が必要となります。
狭窄部が気管のみに限局されている場合は比較的シンプルな術式となり、気管切除および端端吻合となります。これは同じ形のものを縫い合わせるために技術的には最も基本的なものです。
左の図のように、狭くなった部分(狭窄部の上下で気管を一旦切り離し、異常な部分を完全に切除します。上下に残った正常な部分を縫い合わせることによって正常と同じ気管の内腔の太さを得ることができます。
私が初めてヨーロッパに渡った2001年当時、日本国内では合併症の多い難解な術式とされており、実際学会などの発表などを見てもこの術式でも一筋縄ではいっていなかった印象があります。
気管手術の最大の難点は縫い合わせた部分にかかる張力であり、長く切除すればするほどそれは大きくなります。張力が大きいままに縫い合わせるといわゆる吻合不全が起こり、その部分が再度狭窄してきます。手術後にまた狭くなってきたという場合は例外なく吻合不全であり、吻合部の張力をうまく減らせなかったことを意味します。国内の発表を見ているとこのようなケースが非常に多い印象を受けます。
この術式自体はすでに1960年代にアメリカで開発され、1980年代には主にアメリカ、カナダ、フランスなどで多数の手術をこなしている施設がありました。私が2001年から2005年までお世話になったバレンシア大学胸部外科の当時の部長Vicente Tarrazona教授は、当時この分野の三巨人として扱われていたフランス・ボルドーのLouis Couraud教授の一番弟子であり、バレンシア大学で、スペイン全土から送られてくる成人の気道狭窄の手術を行っていました。私がいた頃は年間20−30例の手術を行っており、その多くが長期挿管や気管切開による声門下狭窄に対する手術でした。
次回につづく